学校長からのメッセージ





Message from
President


私はこういう教育を考えています。
私たちは2001年、
こんなReformを行いました。



2002年はReformと
Consolidating the Foundationsが
テーマです



日本音楽学校長

小林 志郎

  
   
日本音楽学校の2001年と2002年
その軌跡と成果、そして今後の取り組み課題


日本音楽学校の建学の精神である「愛と和と誠実」に教育の成果を収斂させることは難しいことではない。どのような教育を指向しても、少なくとも教育の目的は「愛と和と誠実」を除外しては成立し得ないからである。しかし私たちはこの精神をどこよりも強く意識し、その具体的な教育プログラムを模索しつつける責務があると思っている。

 私たちが設定した教育のアイデンティティは、「音楽、造形、運動、シアターを中核とするコミュニケーション能力」の育成にある。このシンボリックな表現は前藤原校長の時代にすでに教育活動として実践されていた。昨年度、私たちはこの教育アイデンティティが誰にも実感でき、誰の目にも見えるようにするためにどうすればいいのかを議論し、構造化を進めてきた。1年間あれば骨太の枠を組み立てることができるだろうと期待していたが、まったく計算違いであった。1年たった今、授業科目、内容、コマ数、シラバスまでは議論できた。しかし学習目標、到達度、評価をはじめとして、私たちが提供する教育を受けた学生は「どういう資質能力を、どの位もち、保育現場でどういう活動ができるのか」という教育実践に踏み切るための仮説をうち立てるまでに至ってない。この作業は今年も継続するが、試練の時である。

 教育アイデンティティの確立を主課題とする個々のリフォームは教員や事務職員たちの献身的努力によって目標設定通りの成果を上げることが出来た。昨年度のリフォーム・プログラムを以下に紹介したい。



(1) シラバスとカリキュラムの改善

 カリキュラム改革は法令に対応できる組み替え作業や授業科目名の変更が主な仕事となり、根本的な検討までは至っていない。一つの学校がカリキュラムで特徴を出していくことは、カリキュラムの運用法を改善する以上に困難である。法令の要求を満たしつつ、他校と異なる個性的なカリキュラムを創出することが日本音楽学校の社会評価を高める直接的な手法であると認識している。本年度もこの課題に取り組んでいく予定である。

またシラバスの改善も必ずしも完全ではない。シラバスは学生たちが授業の目的・手法・プロセスや教科書・参考文献や試験などを授業が始まれ前から、また授業の経緯の中で学習の進度などを理解するための大切なマニュアルである。同時に教員が自らシラバスを書くことで授業構成や内容の緻密な検討が出来る多くの利点をもっている。昨年度はFD委員会を通してこの点の理解を深めることが出来たが、綿密にシラバスを読むと重複している内容、不必要な内容などが散見される。また本校の教育アイデンティティである「音楽、造形、運動、シアターを中核とするコミュニケーション能力」の育成を可能にする個々の授業の内容、量、深さ、アプローチ手法、そして関連科目の相互的な機能と構成などを今後精力的に検討しなければならない。



(2) ミニュツ・ペーパーの実施

 これは偉大な成果を上げていると高く評価したい。過去に多くの大学・短期大学で挑戦したが実施できた学校はわずか10%位である。多くの学校は教員の反対で採用されなかったり、形式的に実施されたに過ぎなかった。この実体に照らし合わせれば、日本音楽学校のミニュツ・ペーパーは、たった1年間の準備期間にもかかわらず見事に定着したと言ってよい。

日本音楽学校の学生が望んでいる授業は、学生の意見発表を尊重した授業形式、グループ活動が可能な授業形式であることが見えてきた。一部、学生の要求がなかなか授業に反映されない不満が潜在的にあることも学生たちとの対話の中から伝わってきた。これは授業評価ではないから、授業の実体や学生とのコミュニケーションがようやくスタートしたという意味で90点をつけることが出来る。



(3) 学生による授業評価

 先行する学校の評価内容や評価実施方法等を参考にしながら、綿密な評価項目の選択・表記の工夫を行った結果、学生と教員間にほとんど問題なく理想的な形で実施された。学生による授業評価は他の学校よりはるかに正確であり、かつ無効回答が少なかったことは高く評価できる。その原因はミニュツ・ペーパーの授業改善が行われてきたからに他ならない。本校の学生は評価の重要性と、それが必ずしも十分ではないが授業に反映されることを理解していたからだ。さらに日常的な評価になれていたから、すべての授業を同一の基準で評価する知識と経験を持っていたこと、もう一つは多くの評価項目を相対化して評価するパースペクティブな感覚を持っていたことによろう。

 学生による授業評価は、私たちにいろいろな改善点を指摘している。現在、評価を分析し、問題点の抽出と対応策を検討する作業に着手したところである。十分に説得力あるデータは現在提示できないが、別表に見られるように本校の教員の教育力は相対的に高いことがわかる。しかし中にはかなり教育力の資質・能力が低い教員が混在することが判明した。このような教員にどういう指導や対応をするかが私に課せられた重大な仕事である。


クリックすると大きな画像になります。



クリックすると大きな画像になります。


別表(上図)はまた次のことを語っている。私たちの授業では、教育機器の活用が相対的に不得手であることや授業の準備がやや不十分であること、教科書が教科書として活用されず、参考書として扱われていることの3点であろう。

 私は昨年度から教員に提唱しているのは、教科書を執筆することである。教科書を執筆することは多くの時間と労力を必要とするが、高等教育においては教員にとって不可欠の教育行為であると考えている。

 上図Q7(本校教員の授業評価平均値)は、数値そのものは公表されている他大学の授業評価よりも最高0.6ポイント高く、平均3.8ポイント高い。ただ教育機器の使用についてのみ、他の学校に遠く及ばない。この点に関しては今後FDの重要課題として改善を推進する必要がある。



(4) 保育研究発表会

保育研究発表会については比較的長い歴史をもっているにもかかわらず、大変評価が低かった。そこで昨年度は保育研究発表会の教育的意義や目的を3回ほど議論した。これまでのやり方を統合し、位置づけを明確にすることを提言し、自由な討論から「保育研究発表会運営申し合わせ」を作成した。

次に、授業の中で作られる作品は一定のレベルをキープできるが、授業外の作品はレベルが低いことから、幼児との対応、作品構成、台本、舞台、演技、演出、進行等について担当者を決め、特別指導を推進した。

昨年度の保育研究発表会は、子どもたちと舞台で交流するという新たな実験に挑戦し、高い成果を残した。いわゆる Participation Theatre (参加劇)に近い舞台表現活動を企画し、学生が「表現者」としての立場と「ファシリテイター」としての立場を使い分けながら、子どもたちと交流する学習を目標とした。これは表現教育としては大変高度な学習内容であり、観客が納得する形式の表現学習ではない。大切なことは、子どもたちの参加をうながし、子どもたちの活動を整理し、集約し、劇的な流れに子どもたちを誘導するいろいろなスキルを体得する点にある。もちろんたった1回の経験で出来るものではない。むしろ失敗や反省こそさらなる学習への契機を生み出すのである。現行の教育の大きな過ちは、あまりに成果を問いすぎることである。今回の発表では子どもの「参加」が予想を上回り進行が停滞したこと、対話がスクリプトの傍系の流れに発展したことなどが成果を問う観客から低い評価が与えられた。見せる教育は目指さない学習プログラムをこの研究会で今後も大切にしていきたい。

「教育はProcessであり、Productsではない」。これが表現教育の哲学であろう。



(5)ティーチング・アシスタント制度の導入

 本校に入学する学生のうち、短大、大学、社会人等の比率が昨年度で約25%である。授業を点検するとこの学生たちの存在がまったく見あたらない。何人かの大学卒業生になぜ存在感を消して授業に参加しているかを聞いてみた結果、「出過ぎない」、「邪魔しない」、「邪魔されない」、「クラスの一員になるための努力をしている」との考えを知ることが出来た。

 本校の教育力を高めるためには、学生の学習姿勢・態度をただし、授業に緊張感を作り出す必要があると考えた。それにはこの学生たちの潜在的な能力を授業の中で生かすことが最上の方法である。そこで本年度から「ティーチング・アシスタント制度」を導入した。アシスタントの使い方などについて相談を受けるが、各自の判断で決めてよいことにしている。

 今年は試行期間であるが、学生が積極的にアシスタントとして活躍し、授業が大変活気づいているとの報告もあれば、ティーチング・アシスタントの仕事が明確でないため学生がやや不満に思っているとの報告もある。しかし、おおむね成功裏に運営されていることから、今年の結果を見て来年度はさらなる発展をめざしユニークなあり方を作り出したい。



(6)ホーム・ページ

 ホーム・ページの構築は教育機関としての本校の社会に対する重要なアカウンタビリティの一つであり、また学校を広く紹介する大切な宣伝媒体である。教育のアイデンティティを明確に伝えることによって教育の透明化を図ることで、学校の社会的ステイタスを向上させ、その結果優れた学生を多数募集するためにもホーム・ページの充実は不可欠な仕事である。

 そのため昨年度の夏休みはホーム・ページの作成に重点を置いた。下図から分かるように学校の教育、組織、システム、行事などを可能な限り詳細に公開した。半年でアクセス回数は5000件を越えるようになった。先方が毎回最低のアクセス代金を支払いながら詳細な学校案内を購入してくれていることになる。ホーム・ページを維持するため、入試情報の更新はもちろんのこと、学生たちの活動や活動報告書などを絶えず記載しながら新鮮な内容を維持するようつとめている。このホーム・ページは日本音楽学校が独自に製作した労作であり、外注すれば巨額な予算を必要とする大作を作り上げることができた。



(7)ティーチャー・オブ・ザ・イアー

 教員の資質能力を高めるためTeacher of the Yearを昨年度に導入した。①優れた教育、②実験的手法を使った教育、③新しい資質能力を育成する教育等を行っている先生を広く教員立ちに紹介し、その教員の授業を一人でも多くの教員が授業に参加・見学して、教員が教授法を学習するために始めた制度である。そのため「FDの一環としてのTeacher of the Year 奨励制度の導入」規定を教員会に報告し、承諾を得て実施した。

 昨年度は「乳児保育」を担当する太田礼子先生をTeacher of the Yearとして表彰した。選考理由は太田先生が大胆で、実験的な授業に挑戦した実績を評価し、授業方法の改善に大胆な実験的手法を採択してほしいというメーセージを込めている。



(8)海外研修旅行、協力園、特別講師

 昨年度の海外研修旅行はオーストラリアの2州(ビクトリア州とサウス・ウエルズ州)を訪問し、2幼稚園、2保育園、1高等学校、1大学院、1教育研究所の授業や保育活動に参加した。その活動内容はホーム・ページを参照していただきたい。

 今回の海外研修旅行のもう一つの成果は、海外研修旅行や教職員の海外研究活動の場としての協定園を開拓できたことだ。シドニー郊外にある「ピンジャラ保育園」と教育提携姉妹校・園の協定を結ぶことができた。

 また今後の研修旅行を見通したとき、現地に指導者が滞在していることが大きな成果へとつながる。今回、シドニーで幼児に日本語を教えている中沢牧子先生に本校のオーストラリア在住の特別講師をお願いした結果、快諾を得ることが出来た。なお中沢先生は日本で保育園に勤務した経験もあり、かつオーストラリアで幼児教育に携わっていらっしゃる現職の先生であり、私は最高の人材であると考えている。もちろんシドニーのピンジャラ保育園で幼児に日本語を教えている授業を拝見し、指導力が十分に高いことを判明したことから特別講師を依頼した。

 中沢先生には、去る7月、本校までご出講いただき、「海外の幼児教育」という教養講座を開講した。講義の内容、量、広がりなど十分に練られた講義であるあけでなく、ティーチング・マテリアルを映像として駆使する手法などを取り入れた明快で説得力に富んだ講義であった。なお中沢先生はオーストラリアの子どものための日本語教材として絵本も執筆なさっている。その中から以下の2作品を紹介する。

Can you do anything special? 「あなたの とくいなことは?」

Can I have a lamington please? 「おかあさん、ラミントンがたべたいな」

いずれも English text: Dana Skopal, Illustration: Margaret A. Clark, Japanese text: Makiko Nakazawa で、OPAL AFFINITY BOOKS から出版されている。



(9)学生の就職指導

 本年度の卒業生の就職率は93パーセントであった。この数字は男子学生が増加していること、社会人経験者などを含む20代後半の学生が多い中で立派な数字であり、本校の誇れる実績であると言えよう。多くの保育士養成専門学校が就職率をセールス・ポイントとするため、男子学生の入学を制限している現状を鑑みると、本校が男性に対しても公平な教育機会を提供し、十分な就職指導を展開していることを示している。おそらく他校も速やかに男子学生の入学を積極的に開始するに違いない。それまでに本校が豊富な指導法や就職指導法、さらには就職先との連携などを開拓しておく必要があろう。



(10)ゼミナールおよびサークルの活動

 現在、3つのゼミナールと7つのサークルが活動を行っている。ゼミナールは教育のジャンルに、サークルは学生生活のジャンルに区分けして掲載すべきであり、今その準備を進めている。

 なお本校のゼミナールはすべて自主的に運営されるゼミナールである。専門的な知識や技術を研究・習得したい学生のニーズに私たちは応える必要がある。専門学校は2年間の短い教育機関であるため、過密な時間割が組まれている。しかしそのような状況の中でもかなりの学生が学問的興味や関心をもって専門分野の課題に挑戦しつつある。今後の発展を期待している。

 またサークルは急速に増加し、活動支援の不足や活動場所の手狭なことが大きな問題となっている。積極的に応援し、授業外の学習に大きな成果を上げられるよう努力したい。


[2002年度の教育改革の課題]



日本音楽学校
〒142-0042 東京都品川区豊町2-16-12
電話:03-3786-1711 / FAX:03-3786-1717 / 
E-Mail:info@nichion.ac.jp
(C)学校法人 三浦学園